約 99,176 件
https://w.atwiki.jp/sasaki_ss/pages/464.html
中学生活3年間の最大イベントと言えば、そう、修学旅行だ。 その一日目、俺は国木田と中河と共にとっとと入浴を済ますべく大浴場へ向かった。 エレベーターを降りると、同時に着いた隣のエレベーターからは同じクラスの女子が数人 連れ立って降りてきた。 「やあキョン。君たちも今から入浴かい?先に言っておくが覗いたりはしないでくれよ。 まあ入っているのが僕だけで覗きに来るのが君だけと言うのならば一向に構わないんだが 今はご覧の通りクラスメイトもいるし、君以外の男子に裸身を晒す気もないからね」 佐々木よ、顔をあわせるなり妙なことを言い出すのは止めてくれ。男子の刺すような視線と 女子の生暖かい視線を受けるのは俺の方なんだからな。 くっくっと笑いながら俺のぼやくのを聞き流して佐々木は脱衣所へと消えていった。 「あ、しまった。国木田、悪いけど部屋に忘れてきちまったんでシャンプー貸してくれ」 「ゴメン。今中河に貸して空になっちゃったんだ。旅行用の小さいのだったから」 そうか。さてどうするか。・・・あ、そうだ。 「おーい、佐々木ー」 「ああ、キョン。今使ってるからちょっと待ってくれるかい」 「うん、終わってからでいいから頼む」 待つことしばし、 「じゃ、今投げるから」 と言う声と共に、親指サイズの携帯用シャンプーが仕切り壁越しに届いた。早速礼を言って 使わせてもらう。 洗髪を終えて身体を洗うべくタオルに石鹸を塗りつけていると佐々木の声がした。 「キョン。すまないがちょっといいかな」 「ああ、いいぜ。ちゃんと取れよ」 俺はそう言って石鹸を女湯の方へ投げ込む。 うまくキャッチできたのか「ありがとう」と言う声が返ってきた。 風呂から上がり脱衣所を出ると、ちょうど佐々木が出てきたところだった。 「キョンも今出たのかい。ああ、他の子はみんな髪が長いんで洗うのにも乾かすのにも時間が かかるようでね」 「ああ、それでか。なるほどな」 「そうそう、石鹸なら濡れてるから明日入るときに返すよ」 「じゃあそうしてくれ。あ、シャンプー使い切っちゃったから明日は俺の貸すってことでいいか?」 「うん」 「なあ国木田。あいつら、お互い何を貸してくれとか一切言わずにやりとりしてたよな」 「うん。それに今だって気がついた?」 「え、何をだ?」 「髪がどうのって佐々木さんの話にキョンが『なるほどな』って納得してたよね。たぶんキョンは 佐々木さんが一人だけ先に風呂から出てたのを疑問に思って、それを口にする前に佐々木さんが 理由を説明したんだと思うよ」 「ああ、言われてみればそう言うことか」 「あと、別に何時ごろとか打ち合わせをしなくても明日も同じ時間に風呂に来るに決まってるって 感じで約束してたよね。もしかしてあの二人、テレパシーで意思の疎通ができる超能力者とか だったりして」 「むしろその方が俺たちの精神衛生上はいい気がするけどな。俺には『あれ』とか『これ』だけで 意思の疎通ができる長年連れ添った夫婦に見えるぜ」
https://w.atwiki.jp/sasaki_ss/pages/1946.html
「やっぱキョンはないわー。古泉くんみたいにイケメンでお金持ちがいいわー。」 「……そう。」 「ふええ……そ、そうですね。」 「そうか。」 「んっふ。」 ま、知ってた。俺が古泉に勝てる要素はないからな。 「さて、将棋でもやるか?古泉。」 「え?……ええ。」 ハルヒ達は、意外そうに俺を見る。 「……あんた、悔しいとかそんなんないの?」 「事実を指摘されて、悔しいもなにもあるか。実際、俺と古泉を並べて俺を選ぶヤツはいない。」 将棋の駒を用意する。 「わかんないわよ?蓼食う虫も好きずきって言うし。」 「ああ、俺は蓼だからな。だから柔らかくて食べやすい草に行ってくれ。」 下手な慰めなんかいらん。所詮俺は非リア。谷口の類友が精々だ。 そうだ、藤原も誘うか。三人寄らば文殊の知恵ともいう。非リア三人で遊べばさぞ楽しかろう。 ボードゲームで古泉を片付け、団活終了まで時間を潰す。とりあえず谷口にメールを送り、佐々木を経由して藤原にメールを送った。 返事は、二人ともイエス。谷口はともかく、藤原も意外と暇なんだな。 「……だから反対したんですよ……。彼にそうした嫉妬を煽る作戦は、絶対に逆効果になる、と……」 「よー、キョン!来たぜ!」 「僕をお前が遊びに誘うのは、既定事項にない。この遊びが、どれだけの(僕とお前は)未来に影響を及ぼす(お友達になれる)のか……ふくく……」 「すまんな、谷口、藤原。たまにゃ野郎同士の親睦を深めたくてよ。」 俺の言葉に谷口がニヤリと笑う。 「まぁ任せろよキョン。色気ぁねえが、たまにはこんなのも良かろうさ!」 「ふくくっ!親睦か!」 三人で、総合スポーツレジャー施設に入る。 「時間は三時間でいいよな?」 「ああ。」 「一晩でも構わんぞ、現地人。」 「死んじまえ。」 バスケットに、テニスに、サッカーに、バッティングに…… 俺達は汗を流し、たまに通るお姉さんを冷やかし、疲れた頃にゲームコーナーに向かい、あっという間に三時間が過ぎた。 藤原と携帯番号を交換し、谷口とも親睦を深め、また遊びに行く約束をして別れる。 ……すっげぇ楽しいな、こういうの。次は国木田や中河達を誘うか。 「やぁ、親友。」 不意に後ろから声をかけられた。この声は佐々木か。 「さっき、随分上機嫌な藤原くんがいてね。話を聞くと、キミと遊んだのが楽しかったそうだ。」 ほう。そりゃ何より。お前もなんなら古泉に話を通しておこうか? 「そこで古泉くんが出るのか、甚だ疑問なんだが……。僕は彼よりはキミと遊びたいよ。」 嘘つけ。 「くっくっ。この蓼め。大方何か言われて拗ねたな?」 うぐ……!やはり佐々木は鋭い……。しかし、俺が古泉に勝る所など…… 「魅力の違いでないかな?古泉くんのルックスが魅力的という人もいれば、キミの唐変木さが魅力的だという人もいる。僕は蓼食う虫でね。」 ……ん? 「男子との友情を深めるのもいいが、たまには僕との友情を深めてくれたまえ、親友。」 佐々木はそう言うと去っていく。 「然るのち、根っ子から食べてあげよう。」 佐々木の言葉に真っ赤になり、俺は立ち尽くした。 ……まぁ、後日は略するぜ。結果だけ言えば、蓼はくつくつ虫に根っ子から食われた。 谷口達とも仲良くなり、男連中で遊ぶ機会も増えた。時々くつくつ虫も参戦し、男連中から笑われるが、まぁそこはそれだ。 ハルヒ達が古泉とうまくいくようセッティングしていたら、古泉が過労死寸前になっていた。あの美女三人が相手だとは羨ましいが、それも甲斐性だろうな。頑張れ、古泉。 「堪忍してください……」 「どうしてこうなった……」 「……エラー……」 「ふええ……」 END
https://w.atwiki.jp/sasaki_ss/pages/1895.html
妹のとんでもない発言で俺は咳き込んで、佐々木に背中を叩いてもらい、どうにか元に戻ったのだが、そこに長門がやってきた。 「キョン君」 如何した、長門。 「実行委員会にクラブ対抗リレーの最終順番表を出すけど、このままで良かったよね」 ああ、その順番で問題ない。SOS団の方も変更は無いと古泉が言っていたからな。俺達も変えるつもりはない。 「わかった。それじゃ出してくるね…、あれ、シャミセンが来てるの?」 妹が連れて来たシャミセンは、長門の姿を見ると、嬉しそうに擦り寄って来て、ニャアと鳴いた。 長門が抱きかかえて、頭を撫でてやると、シャミセンは満足げにゴロゴロと喉を鳴らした。 「ちょっと見ない間に大きくなったね」 夏休みの終わりがけに、長門が我が家にシャミセンを見に来て以来だ。あの後から、急に太り出した。秋に合わせたわけじゃある まいが。 「それじゃ、ね。シャミセン」 長門は妹にシャミセンを渡した。 「また、お家に見に来ていい?」 いつでも見に来ていいぞ。もとはといえば、長門の猫だからな。 俺がそういうと、長門は嬉しそうに笑った。 午後の競技も順調に進み、いよいよ俺達の出番、すなわちクラブ対抗リレーの時間が近づいてきた。 「キョン、そろそろ行こうか」 佐々木に促され、俺と国木田、そして朝倉は集合場所へ向かった。 リレーの順番は次の通りである。 国木田⇒長門⇒朝倉⇒俺⇒佐々木。 ちなみに、古泉から聞いたSOS団の順番は、以下の通りである。 谷口⇒朝比奈さん⇒鶴屋さん⇒古泉⇒涼宮。 SOS団の最終走者が涼宮だと聞いた時、佐々木は真っ先に自分がアンカーをやると言った。 「面白くなりそうだよ」 そう言って、佐々木はくっくっくと笑った。やる気満々である。 そういう俺も、負けたくはないという気持ちになり、皆で順番を考えることになった。 谷口には国木田をぶつけたのは、普段体育の授業で一緒にやっていて谷口の能力を知っているからだ。 谷口は案外運動神経はいい方で、国木田よりも走るのは早いが、そこまで差があるわけではない。勝てなくても大負けしなけれ ばいい。次の走者である長門も、走るのは結構得意だそうで、長門に差は縮めてもらう。 問題は鶴屋さんと涼宮だ。 国木田の話によれば、鶴屋さんは頭だけではなく、運動神経も抜群だそうだ。どれだけ走るのか、未知数だ。 最初、俺は長門と朝倉の順番を逆にしていたのだが、皆で考えた結果、朝倉を鶴屋さんにぶつけることにした。朝倉も走るのは 、クラスの女子の中で相当速いからだ。 そして、涼宮。 入学直後、学校のクラブに全部体験入部したという、佐々木並みの能力の高さに、むだに有り余っていそうな体力。 正直、佐々木も苦戦しそうだが、ここは佐々木を信じてラストは任せる。 「さあ、行くぞ!」 第一走者の国木田に襷を渡して、俺達は手を重ね気合いを入れた。 各クラブの第一走者が、スタート地点に並んだ。 このクラブ対抗リレーに参加したクラブは16組。体育会系が14、文科系が2である。 一応、俺達は当然だが、SOS団も文科系部になっているらしい。何をやっているかはよくわからんが、とりあえ ず文科系にしておけという、生徒会の判断があったらしい。 「それにしても、何よ、うちの学校の文化部は。軟弱ぞろいばかりなわけ?」 涼宮があきれた様に言っていたが、この競技に、過去文化系のクラブは参加した事がない。俺達が初めてなのだ。 まあ、文科系部の活躍する場は、この体育祭の後にある学園祭が中心なので、参加しないのは当然といえば、当然 であるが。文科系が参加する方が変わっているのだ。 16組を二手に分け、8組づつ、400メートルのトラックを各ランナーは一周走る。その合計タイムが一番速いクラ ブが優勝である。 「なお、優勝したクラブには、特別予算を支給する」 生徒会長が競技の始まる前に、こう宣言したものだから、俄然各クラブは色めきたった。 「優勝はSOS団がいただくわよ!」 涼宮はふんぞり返って古泉達に宣言していたが、あいつらが優勝しても、特別予算は降りるのだろうか? 文芸部とSOS団は後の8組に入れられた。ちなみに前半のトップは陸上部(当然と言えば当然か)だった。 運動部に混じり、文芸部とSOS団の襷を掛け、国木田と谷口が第一走者として並ぶ。 「位置について」 第一走者達がスタートの構えをとる。 火薬の音と共に、一斉に走り出した。 現在、谷口が5位、国木田が6位。4位から下は団子状態で、谷口と国木田の差は4メートル程だ。 「計算通りだ」 国木田は良く頑張っている。ゴール前で、谷口との差を少し縮めて、襷は長門に渡された。 「それにしてもすごいね」 佐々木が笑いながらそう言った。 何がすごいかって? 朝比奈さんへの、男子生徒への声援である。 愛くるしい容貌に加え、まあ、その、ちょっと言いにくいが、いわゆる巨乳が目立つ朝比奈さんが一生懸命走る姿は 野郎共の保護欲を刺激したのであろう。すざましい大声援である。 普段の俺だったら、その輪に加わっていたかもしれないが、今、俺が応援すべきはただ一人。 「長門、頑張れ!!」 大声援に負けじと、俺は声を張り上げた。 長門の頑張りで、文芸部は一気に順位を3位に上げた。ちなみに朝比奈さんは5位のまま鶴屋さんに襷を渡した。 朝倉の走る姿は見事だった。陸上競技をやっていたんじゃないかと思うくらい、フォームが決まっている。スピ ードも速い。 だが…… 鶴屋さんの能力にはある種のでたらめさがある。国木田が言っていたが、やはりこの人は規格外の存在だ。 軽々と、という言葉がぴったり当てはまるような走りっぷりで、鶴屋さんは一気に前の走者を抜き去り、トップに 躍り出た。 朝倉が懸命に鶴屋さんを追いかける。まだ、それほど引き離されてはいない。 ゴール前、鶴屋さんから、古泉に襷が渡った。 「キョン君!」 少し遅れて、俺は襷を朝倉から受け取った。 襷を受けて、俺は走り出す。朝倉のおかげで、古泉はまだ射程距離内である。感謝するよ、朝倉。 古泉はなかなか冷静な走りを見せている。おそらく最後の直線距離100メートルで、スパート をかけるつもりだろう。 古泉との差はまだ縮まっていない。 「キョン、頑張れ!」 佐々木の声が聞こえる。 あいつに古泉と並んで襷を渡す。それが最低限度の俺の役目だ。 ラスト100メートル。 古泉と俺は勝負に出た。 「佐々木!」 ただ、佐々木の名前だけを呼んで、俺は襷を渡す。 笑顔で、俺の大好きな佐々木の笑顔で襷を受け取り、佐々木は走り出した。 全く同じタイミングで、涼宮も古泉から襷を受け取り、勢いよく駈けだした。 二人の走りはまるでカモシカが走る様だった。 佐々木も涼宮も、駆け抜けるという言葉が当てはまる様な速さで、2位以下を大きく離してトラック を走っていた。 どちらも一歩もゆずる気配は無い。涼宮の走りは予想していたが、佐々木がこれだけ走れるのは予想 外だった。 ラストの直線。 俺は立ち上がり、ゴール前で声を挙げて佐々木を応援していた。 「佐々木、頑張れ、後少しだ!」 佐々木と涼宮が、同時に並んでゴールしようとした時、佐々木が何かにけ躓き、バランスを崩した。 「佐々木!」 俺は叫ぶと同時に駈けだしていた。 「……助かったよ、キョン。ありがとう」 俺の腕の中で、佐々木はホッとした表情でそうつぶやいた。 佐々木が転倒したまま、ゴールする寸前、俺はなんとか佐々木の体を受け止めて支える事が出来た。 「涼宮さんに負けたのは、少し悔しいけどね」 結局、僅差で1位は涼宮だったが、佐々木はよく頑張ってくれた。怪我がなくて何よりだ。 「アンタ達、いつまでイチャついているのよ!」 1位を取ってご満悦のはずの涼宮は、何故か膨れ面をしている。良く分からん奴だ。 「涼宮、お前の走る姿、すごくかっこよかったぞ」 一瞬、虚をつかれたような表情になり、その後、なぜか俺から顔をそらした。 「ベ、別にアンタに褒められる為に走ったわけじゃないんだからね!」 その様子が少しおかしくて、俺と佐々木は思わず笑ってしまった。 結局、このクラブ対抗リレーは、優勝はなみいる体育会系を押さえて、SOS団と文芸部が1位、2位 になるという、でたらめな結果に終わった。 このことにより、SOS団と文芸部の認知度は、一気に高まる事となった。 「なんだって俺達がそんなことをしなきゃならないんです?」 クラブ対抗リレーの後、俺達文芸部とSOS団は、体育祭実行委員会に呼ばれ出向いたのであるが、何故かそこ に生徒会長と、書記の――長門と朝倉の先輩で、喜緑さんという――姿があった。 「なに、簡単な事だ。君たちはクラブ対抗リレーで見事に1位、2位を取った。その輝かしいクラブに、生徒 代表ということで、我々と前の方で踊ってもらいたい、ということなのだよ」 ・・・・・・理屈にもなっていない。 体育祭の最終プログラムは、全校生徒による創作ダンスである。 これが中々しゃれていて、音楽は軽音学部が作詞作曲して、ダンスの振り付けは創作ダンス部が振り付けを 考案するという、生徒主体の創作活動を刺激する目的にもなっているのだ。 しかも、軽音楽部が生演奏で奏でる歌に合わせ踊るという、かなり面白い試みなのだ。 だが、まさかこんな話が持ち込まれるとは、全く想定していなかった。 結局、俺達はその話を承諾した。 涼宮と佐々木が乗り気だったこと、喜緑さんが長門と朝倉の先輩に当たるということで、断るわけにもいかな くなったからだ。 「全校生徒の前で踊るのかよ」 「まあ、全員踊っているからね。生徒たちよりも、保護者や家族たちに見られると考えたほうがいいね」 親も妹もまだ帰ってない。佐々木と俺の姿が母親のデジカメの餌食になるのは必定である。 「君との写真なら、僕は何枚取られても構わないのだけど」 体育祭最後のプログラム、創作ダンス。 文芸部、SOS団、そして生徒会長と喜緑さんがステ-ジにあがる。 ステ-ジには軽音楽部の部員たちがチューニングを行っている。 コンピュータ研究部、略してコンピ研が彼女たち(言い忘れていたが、軽音楽部は女子生徒ばかりである)の 音楽をデジタル変換して、携帯やスマホ、デジタル音楽プレーヤ-に配信してくれていて、全校生徒はそれで練習 いるのだが、生演奏はまた違っているだろう。うまくいくことを祈る。 うん?そういえば、創作ダンス部はどこにいったんだ?あいつらこそがステ-ジの立つべきじゃないのか? 「ああ、彼らは怖気づいてね。全校生徒の前で踊るのは、今回は勘弁してくれとの申し出があった」 意味ないじゃね-か! ダンスは二曲。一曲目は軽快さを感じさせるような、ダンスミュージックだ。 ヘタレの創作ダンス部が考えた振り付けは、簡素だが曲に合わせて踊りやすいようにできている。 二人一組で踊り、曲が進むに連れ、パートナーは次々と入れ替わる。 俺も涼宮や長門、朝倉や朝比奈さんたちと踊り、そして佐々木と踊った。 谷口は朝比奈さんと踊れて、顔がにやけっぱなしだった。夏休みに彼女だと自慢していた九曜に写メ-ルで送り つけてやってもいいが。 国木田は鶴屋さんと、古泉は涼宮と踊れて実に嬉しそうな表情をしていた。 ノリがよく、おおいに盛り上がった一曲目とガラリと変わり、次の、そして体育祭の最後を飾るのは、軽音楽部 の部員たちが一番気に入っているというバラードだった。 「なかなかいい曲だよ。音もいいが、詞も気に入った。僕はあまり詞を気にかけないことのほうが多いのだけどね」 日頃洋楽を中心に聞いている佐々木が、褒めていたが、俺もいい曲だと思った。 俺は佐々木と手を繋ぐ。プログラム最後の始まりだ。 ”きっかけはありふれたもの 何気ない日々の中で 僕は君と出会った さりげなく言葉を交わした ” ”それが全ての始まり 君と僕との物語 君といるありふれた でも宝物のような日々 小さな宝石 ” ”夜空に煌く星から見れば 僕達の時間は一瞬の閃光 だけど僕らの思いはすべてを照らす ” ”君と手を繋ごう ふたりのこの手で未来を紡ごう 時空の翼で僕等は飛び立つ 時の彼方へ・・・・・・ ” 軽音楽部の渾身の演奏が終わり、気がつくといつの間にか俺と佐々木はステ-ジの中央にいた。 一曲目と同様、パートナーは次々と入れ替わったが、曲の最後で俺は佐々木と手をつないでいた。 全校生徒から、割れんばかりの拍手と歓声が上がった。 その喧騒の中で、俺と佐々木は、お互いの手を握りしめていた。
https://w.atwiki.jp/sasaki_ss/pages/1104.html
さて、突然だが俺は過去において「眼が覚めたら忌まわしい灰色空間に いました」などという笑えないことも経験したことがある。 その時はその時で驚いた訳だが、それでもスマイル0円超能力者と 執事運転による黒タクシーを思えば二度目のことであり、ハルヒだって いた。 異常事態といえど俺は理性を保っていたのさ。 ああ、つまり何が言いたいかというとだな、これは便利なことにワンセンテンツ で済みそうだ。 では言おう。 体が、動かん。 どれくらい動かないかというと、そりゃあもうドラム缶にコンクリで詰め詰めされた ぐらい動かない。 いや、そんな体験はないが、とにかく動かない。 そりゃそうか。 頑丈な縄らしきものでダブルベッドに縛り付けられてるんだもんな。 えーと、で、俺は何でこんな拉致監禁状態なんだろうか。 「おや、起きたかい、キョン」 「……………佐々木サン?一体ナニヲシテイラッシャルノデショウカ」 いや、消し飛んだね。 何がって脳内にあった疑問が、さ。んでもってようやく過去を思い出してくれた脳よ、 ありがとう。俺が五体満足で帰れたら糖分を補給してやろう。 …という現実逃避も、まぁ、ここまでにして、だ。 嫌なことだが現実を直視しようじゃないか。 「何って、明白なことじゃないかキョン。ああ、それとも女性にマウントポジション をとられるのは精神的苦痛かな?」 OK、状況がよく解る一言ありがとう。これでもう俺が解説することは無くなった。 「とりあえずこの縄をほどいてくれ、佐々木。動けん。」 「それは無理というものだよ。もう薬は切れてしまっただろうからね、解いたら君に 逃げられてしまうだろう?」 「何が逃げるだ…っていうか、何の真似だ。 そしてここはどこだ。 拉致監禁が犯罪であることをお前が知らない訳ないだろうに。」 「先ずは納得してもらう必要有り、か。 しかし、キョンも大したものだね。 この状況では僕が絶対的に有利なのにいつもと変わらないのだから。 くっくっ、やはり君はすばらしいな。色々と持て余してしまうよ。」 いいから説明しろ。内容いかんによっては俺でも怒るぞ。 「それは困るな、君に怒られては今すぐ心中するしかない。 さて、ではどこから説明しようか。」 理由からだ。一応意識を失うまでのことは記憶にあるんでな、何で薬を 盛って俺をこんな風にしているのか、その理由だ。 ちなみに、心中は止めてくれよ。頼むから。 「いきなり核心を言うのは不粋というものだよ、キョン。 そうだね、まず言うなら君に飲んでもらった薬のことだろう。 あれは九曜さんに作ってもらったものでね、効果は微弱な筋弛緩と精神 の高揚らしい。筋弛緩作用が内臓系に及ぶことはないから安心してくれ。」 そうかい。確かに、情報なんたら思念体と対抗するぐらいの連中だから そのぐらいなんてことはないだろう。 「そして君をここまで搬送した手段だが、橘さんの仲間に協力していただいたよ。 ちなみに、君の体に変なことをしてないのは僕が保障するからまた安心し てくれ。 まぁ、場所がわかると厄介だったからクロロホルムも使ったのだけれどね。」 完全に誘拐だな。 「愛の逃避行と言ってくれたまえ。誘拐などという犯罪的行為ではないよ。 君の同意も得ていた訳だからね。」 ハイで朦朧としていた状態での返事が有効なのか、俺は知りたい。 「後は言うまでも無いが一応言っておくと、これまた橘さんの仲間に協力 してもらって君を運び込んだ。ああ、その縄は僕が一人でやった。 中々どうして、うまくできたものだろう?」 今日ほどお前が器用なことを怨んだ日はないぜ。 「くっくっくっ、それでは説明も終わったことだし、ご馳走を頂くことにしよう」 佐々木の端正な顔が近づいてくる。 ちょっと待て、ご馳走って何をするつもりなんだこ 「てか理由言ってな………っっっ!!!!!」 唇と唇がもう少しで触れそうになったところでどうにか顔をそらし、 逸らしたはいいが、耳を啄ばまれた。 暖かく、湿った感触が神経を鋭敏にしていく。 「ぅおい、何すんだよっ」 「くっくっ、痛かったりしたら遠慮なく言ってくれたまえ。 なにぶん経験がないのでどうにも力加減がわからないんだ。」 そういう問題ではない。決して。 そして今すぐ耳元でささやくのを止めてくれってかその言葉は 女性が言うものではありませ 「うっわっ」 舌が、今度は首筋で暴れる。 動脈をなぞるような動きに背筋を何かが走り抜けていく。 これは、ヤバイ。 何がって色々と理性とか自制とか我が息子がヤバイ。 「くっくっ、では、頂きます。」 その後何があったかは言うまでもあるまい。 というか言いたくない。言えません。ごめんなさい。 強いて言うなら、そうだな。 「くっくっくっ……キョン、愛してるよ」 こいつが今俺の隣にいるってことだけだ。
https://w.atwiki.jp/sasaki_ss/pages/1988.html
春先になると、マスクマンが増える。それは私の親友も例外でなく。 「……」ズルリ 「風邪かい?くっくっ。」 私には一生無縁だと考えていた、花粉症。しかし。 「お前、花粉症って誰でも羅患する可能性があるからな。なってみたらわかるぜ、この辛さは。」 神様というのは存外残酷な存在だ。 「…………」ズルリ 風邪だ。そうに違いない。 本日何回目か分からないティッシュペーパーの消費。きっと鼻風邪を引いたに違いない。 私としたことが、自己管理を怠るとは。 「……くしゅんっ!」 きっと鼻風邪なんだ。朝に会うキョンに風邪を移しても悪いな。マスクをしないと。 「咳に鼻水に涙目。花粉症だな。ざまぁ。」 「…………」ズルリ やれやれ、親友。僕がそんなやわなわけはないだろう?ただの鼻風邪さ。 「春の間続く鼻風邪はねぇよ。試しにマスク外してみろ。咳が止まらないだろ。」 「…………」 …百歩譲って、花粉症と認めよう。それにしてはキミは去年に較べて、随分症状が緩和しているようだが? 「マスクと眼鏡と薬だ。」 ほう。それは良い事を。 「早速試してみるか。」ズルリ キョンと別れ、病院に行く。マスクと眼鏡と薬を貰い、学校へ。 症状は緩和しているが、やはり辛い。何人も同じような格好だ。やっぱり辛いよね。同病相憐れむというところだよ。 そんな中、元気なのは橘さん。 「うーん、空気が澱んでいるのです。」 窓に近寄る橘さん。……まさか……。橘さんは窓を全開にし、風を堪能しだした。 「うわぁ、いい風。」 春風に靡く彼女の金髪。美しいね。心の底から憎いよ、風を堪能出来る神経が。殺気立ったクラスの皆が、橘さんを囲む。 「どうしたのですか?」 にっこり笑う橘さん。今なら憎しみで人を殺せる気がするよ。 ……橘さんの運命はわかるよね。クラスの花粉症の皆から袋叩きさ。 「わ、私が何をしたというのです……」 「花粉症デビューしたの。眼球を外して冷水で洗いたいと考えている人間に、春風は毒なのよ。」 「へー……」 いまいち緊張感のない返事だ。まぁ、なればわかるさ。 学校帰り、キョンと会う。塾は自主休だ。花粉症がつらい。 「お前も、橘と全く同じ事やったけどな。」 それは失敬。二度とやらないとこの場に誓うよ。しかし眠い…… 「薬の副作用だな。……寝とけ。多分夜になったら鼻水の海で溺死しちまうぞ。」 そうか……。お言葉に甘えるかな?……ん? 「…………」 「…………これは何の真似かな?親友。」 私は、キョンに後ろから抱き着かれる形になっていた。 「人間カイロだな。暖かくて気持ちいい。」 「やれやれ。」 普段もこの位積極的だと助かるが。少し嬉しくて泣けたが、目がシパシパしたからという言い訳をしておくよ。 晴れた空が眩しい。明日も花粉が舞うんだろうな。 晴れ時々涙。 キョンの温もりを背中に感じ、私は目を閉じた。 ……たまにはこんなのも悪くないよね。 「くしゅんっ!」 「うわっ!鼻水が!」 前言撤回。やっぱり健康が一番ね。 END
https://w.atwiki.jp/sasaki_ss/pages/44.html
特に理由は無い。 強いて言うなら、なんとなくだ。 2年に上がった夏、授業が終わるとハルヒは早々に今日の団活の中止を言い渡しかえっていった。 頭の中がすでに古泉との将棋モードになっていた俺には少々拍子抜けなお達しだ。 団活が無い以上これ以上学校にいる意味は無い。 しかし、ついさっきまで部室でだらける気満々だった俺はすぐに家に帰る気にもならなかった。 こういう日に限って掃除当番でもないのだ。 めんどくさそうな顔をしながら箒を出す谷口と変わってやろうかという考えが頭をもたげたが、 あいつの喜んだ面なんぞ見たくもないので却下する。 荷物をまとめ、下駄箱で靴を履き替え、歩く。 今日は涼しい。 今は夏で晴れてはいるが雲もそこそこ多く、気温は高くない。 何時も登校中の俺を悩ませる坂の頂上に立つ。 気持ちのいい風が吹いた。 その風は、わずかにあったまっすぐ家に帰るという考えをあっという間に吹き飛ばしてしまった。 目をつぶり、頭の中に友人リストを作り上げる。 一番最初に浮かんだのは・・・・・・佐々木だ。 ん?なぜ佐々木なんだ? 俺が思い浮かべるのは谷口・・・は掃除当番だから、国木田や古泉かと思ったんだが。 佐々木は確かに俺の16年の人生通して一番の親友といっていいだろう。 異性ではあるが、それを感じさせないあいつとの会話は俺の好むところだったし事実中学時代は毎日のように話していたものだ。 だが、あいつは学校が違う。 ここからそれなりの距離のある進学校に通っている。 そのせいか高校入学から春に起こった例の事件までの一年間は疎遠になっていたのだ。 あの事件以降俺と佐々木はちょくちょく会うようになっている。 1年のブランクを感じさせない関係は親友の親友たる由縁だろう。 しかしそれは俺にSOS団の不思議探索も、佐々木に予備校の授業も無い休日に2日ほど前から示し合わせてあっている程度だ。 今急に連絡を取ったとして、放課後の暇つぶしに付き合ってくれる・・・付き合える友人という度合いでは最低レベルであろう。 だがまぁ思いついたものは仕方が無い。俺は割りと直感を大事にするほうなのだ。 携帯を出して電話帳を起動し、佐々木のページを開く。 そこでふと思った。 あいつは学校に携帯を持っていっているのか? まじめなあいつのことだ、学校が携帯の持ち込み禁止ならばもって行くことはすまい。 そうでなくとも授業中だったりHRだったりすればマナーモードどころか電源を切ってあるだろう。 思いつくのは誘いに乗ってこない理由ばかりだ、今回ばかりは感が外れたか? そんなことを考えながら通話ボタンを押す。 そして1コール。 しないうちに俺の携帯は通話状態になった。 恐らく佐々木の携帯は着メロの音符を3つも鳴らせたならいいほうだろう。 「やあキョン、こんな時間に電話とは珍しいね」 すぐに佐々木の声が俺の携帯から発せられる。 こんなに早く出るとは思わなかったので少々驚いたがとっとと本題を言うことにしよう。 「ああ、たいした用事じゃないんだが・・・・・・これから、暇か?」 必要最低限の言葉しか発しない。 しかし十分意図は通じるだろう。 佐々木のことだ、それどころか俺が佐々木に電話するに至った思考まで読んでくるかもしれない。 「くっくっ、急なお誘いだね。半端に時間が空いてしまったがこの素晴らしい気候のなかさっさと帰るのはもったいないってところかな?」 ほらな。 「そんなとこだ、お前が最初に浮かんだから電話させてもらった」 「そうか、だが生憎今日は・・・・・・最初か・・・・・・・いや、それは明日だったな、よし、付き合おう・・・あと30分もあれば駅に着く」 意外なことにOKが出た。 俺の感も捨てたものじゃないということか。 長い沈黙の間に佐々木が何か言った気がしたがそれは聞き取れなかった。 「わかった、んじゃ30分後に駅前で」 「わかった・・・・・・キョン、今は学校かい?」 「ああ、そうだが?」 「ということは自転車のはずだね、どうだろう、また昔みたいに後ろに乗せてくれないか」 「・・・・・・それもいいな、つらかった日々を思い出すのも悪くない」 「くっくっ・・・・・・じゃあ、30分後に」 「ああ、またな」 軽い挨拶のあと電話は切れた。 「さて、行くか」 坂を下りようと歩き始める。 その時、再び心地よい風が吹いた。 「・・・・・・ああ、そうか」 心地よい風を受けて走る自転車。 それは俺にとってつらい勉強の合間の清涼剤でもあったのだ。 俺が最初に思いついたのが佐々木だったのは・・・・・・。 「心地よい風が吹いてるとき、後ろのいるのはあいつだから・・・・か」 この発想は俺の思考を理由付けるのに十分な説得力があった。 しかし自分の頭に浮かんだ考えになんとなく気恥ずかしさを覚え、んなわけねーか。と付け足した。 さ、急がなくては。 親友との待ち合わせに遅れてしまう・・・・・・。
https://w.atwiki.jp/sasaki_ss/pages/1521.html
『2人で夜桜を見ないかい』 突然、佐々木からそんなメールが来た。 俺は驚きはしたものの、特に断る理由もなく、単純に夜桜を見るのもいいかもしれないと思ったわけで、 『いつ行くんだ?』 と、了承のステップはスキップして詳細を尋ねていた。 『もう少し迷うと思ったんだがね。決定が早くて安心したよ。 日時と場所についてなんだが、1つ謝らないといけないことがある。 行くのは今日の夜がいいんだが、僕は予備校があるんだ。 早く切り上げるようにするつもりだけど、どうしても9時は過ぎてしまいそうなんだ。 僕から誘っておいて悪いんだけど、それでも構わないかい?』 ふむ。 9時を過ぎるか。 まあ家は男の俺には結構放任主義なところがあるからな。 それ以前に、もっと都合のいい日はなかったのかと思うが…。 そこは聞かないでおくか。 『構わないが、予備校は大丈夫なのか? というか予備校は近くか?』 短くそれだけ。 ハルヒ曰く、俺のメールは素っ気なさすぎるらしい。 なんというか、苦手なんだよな、そういうの。 それに、改善したらしたで、『なんか変…っていうか似合ってない』とか言われそうだしな。 …とメールの返信が到着。 もちろんFrom佐々木だ。 『そうか、良かった…。 予備校は構わないよ。 場所は近くと言えば近くだ。 安全第一!って両親がね。 それと場所だが、懐かしの中学校はどうだい?』 ふむふむなるほど。 大体は把握した。 『中学か。 確かにあそこなら桜がたくさんあるしな。 いい桜が見れそうだ。 それでだ佐々木。 久しぶりに2人乗り…してみるか? 塾が近いなら迎えに行けるしな』 我ながらいい提案だな。 佐々木と久しぶりに2人乗りって言うのも悪くない。 …って返事が早いな佐々木。 『いやはや、まさか君からその言葉が聞けるとはね。 僕からのわがままとして聞いてもらおうと思っていたんだが…。 頭でも打ったのかい? いや冗談だよ? 怒らないでくれ。 こうして携帯の文字盤に向かっている今でも、君のむっとした表情が見えるからね。 話を戻そう。 塾まで迎えに来てくれるなら是非お願いするよ。 塾の場所はね……』 前半の意味が分からないが、俺はいつでも紳士のつもりだ。 それにしても、さすが佐々木。 塾の場所の説明が簡潔明瞭である。 たった3行で丸分かりだ。 『分かった。 じゃあ今日の夜な』 そのメッセージを送信し、携帯をポケットへしまう。 さて、今俺はSOS団部室、もとい文芸部室におかれた椅子のうちの一つに座っている。 そこでどうして今のような荒技が可能だったのかというと、我らが団長ハルヒが団長机に突っ伏して爆睡中だからである。 どうしてか……は知らんが。 というかお前はさっきの国語寝てたじゃねえか。 「おやおや…誰とのメールでしょうかね」 ……突然目の前に現れてくれるな古泉副団長。 しかも顔が近いぞものすごく。 「これは失礼。 それで、誰とのメールだったんですか?」 別に誰でもいいだろう。 俺にもプライバシーってもんがあるんだぞ。 「それは常日頃から心得ていますよ。 ただ、あなたの表情が気になったもので」 「わたしもです~。 誰とメールしてたんですか?」 朝比奈さんまで…。 しょうがない…白状するか。 「佐々木、ですよ。 ってなんで2人とも不機嫌そうになるんだよ」 全くなんだってんだ。 「それは…どんな内容だったんですか?」 メールの内容まで聞くか古泉。 まあでも朝比奈さんも聞きたそうにしてるし、そんなやましい事もないから別にいいだろう。 「今日の夜、俺らの中学に夜桜を見に行かないか、って誘われたんだよ。 それだけだ」 「だっ、だめですよぅ」 なんで急に泣きそうな顔になるんですか朝比奈さん。 これじゃまるで俺が悪いことしたみたいじゃないですか。 「涼宮さんにばれたら大変なことになりますが。 おもに僕が」 ばれたら、ってなんだよ。 別に友達と夜桜見に行くくらい問題ないだろう? というか朝比奈さんはどうして嫌なんですか。 「ど、どうしてってそれは…禁則…です…」 ちくしょう。 この上目遣いには耐えられん。 「前にも言いましたが、相手が佐々木さんだから大変なんです。 どうか分かってください」 ああ、あのなんか昔の俺を知ってる佐々木がどうのこうのって話か。 確かに俺も朝比奈さんが知らない男と仲睦まじく喋ってたら嫌だがな…要はばれなきゃいいんだろ? 「キョンくん…? わたしがキョンくんの知らない男の人と仲良くしてた事ありましたっけ…?」 ああ、こっちの話です朝比奈さん。 「ですが…」 古泉が答えに詰まったその時、 「なーにがあたしにばれなきゃいいってぇ?」 背筋が凍るような微笑みをたたえたハルヒ団長が立っていた。 俺の後ろに。 「いや、これは…だな、ハルヒ」 「あんたはいいの。 で、古泉君とみくるちゃん」 朝比奈さんはもちろんのこと、古泉も一瞬びくってしたような気がした。 「なんでしょう?」 「な…なな…な」 いかん。 朝比奈さんは『な』しか言えてない。 それに古泉の0円スマイルが崩壊寸前だ。 「あたしが言いたいこと、分かってるわよね?」 俺は口出しができないらしい。 ハルヒが俺の肩を今にも砕かんばかりの勢いで掴んでいる。 「いえ…これは彼のプライバシーにかかわる問題でして…僕たちも詳しい事は知らないんです」 …こいつ逃げやがった。 相変わらず、朝比奈さんは『な』しか言わない。 するとハルヒは俺の首を思いきり後ろに倒し、上に向けさせた。 眼前にはハルヒの顔がある。 「あんたに聞くしかなさそうねぇ、キョン?」 く、苦し…。 とりあえずこのキャメルクラッチを外してくれないか。 そろそろ極まりそうだ。 「だめよ。 白状するまで外してあげないんだから!」 ……なんだよそんなに気になるなら言ってやるよちくしょう。 「今さっき、お前が爆睡してる時に佐々木から『夜桜を見に行かないか?』ってメールが来たんだよ。 それだけだ」 やっと外れた。 ふぅ、と一息ついた頃に、ハルヒからの質問攻めが再開された。 「どこで? なんで突然? というかあんたたちなんで1年ぶりで急にそんなに仲良くなってんのよ。 で、あんたはオッケーしたのエロキョン? あ、べ、別にあんたが気になったりとかしてるわけじゃなくて、SOS団の雑用が犯罪に走らないかが気になってるだけなんだからね!」 …随分な言われようだな。 まあ特に断る理由もないし了承はしたが……ってなんだよその顔は。 行く行かないは俺の自由だろう。 まあそこが一筋縄でいかないのがこの涼宮ハルヒなわけだが……成行きにまかせて言っちまった……さて、どうしたものか。 「ふーん…。 オッケーしたの…。 ふーん」 そろそろ古泉の携帯が鳴るころか? …などと、体は子ども頭脳は大人!で有名な眼鏡少年張りに、顎に手を当て考えにふけるハルヒを眺めていると、 「まあいいわ! せいぜい2人の時間を精一杯楽しむことね! 桜もそろそろ散る頃だし」 と、制服のスカートを小さく翻して団長机に戻った。 「古泉」 なんとかアイコンタクトで合図を送る。 「ええ、僕も不思議に思っていたところです。 今回は閉鎖空間の発生が感じられませんし、連絡も来ません」 おお、なんという奇跡……ん? ハルヒ今何て言った? 「何よ、人の話はちゃんと聞きなさいよ。 せいぜい2人の時間を精一杯楽しむことね! って言ったのよ」 と言って、にぃと笑う。 古泉が「あ、なるほど…」としたり顔で頷いている。 がしかし、俺が聞きたいのはそこじゃない。 「違う違う。 その後だ。 桜がどうとか」 ハルヒは一瞬、そんな事言ったっけ? という顔をして、 「ああ…桜もそろそろ散る頃だし、って言ったのよ」 「そういえば朝からニュースで言ってましたね~」 本当ですか朝比奈さん。 なるほど、佐々木がどうしても今夜、と誘ってきた理由が分かったぞ。 今度は俺がしたり顔をする番だ。 「なによ。 そんな事が気になったわけ? あんたってばホントどうしようもないわね……って有希、その本逆さまじゃない?」 ハルヒの愚痴をへいへいってな具合に流した俺だが、長門の本が逆さまだったのにはおでれーた。 おっと失礼、驚いた。 「……うかつ」 うかつ…ってどうしたんだ長門。 まさかお前どこか悪いところでもあるのか? 「違いますよキョンくん…。 わたしにも分かります……長門さんの気持ち…」 え…どうしたんですか朝比奈さん? 突然悟りを開いた仏さまのような顔をして…。 「いいんですよ、キョンくんは」 はあ…。 なんか心配なんだが……と朝比奈さんと長門を交互に見やり、分からん…と正面を向いた。 同時に、長門が読んでいる本をいつものようにパタンと閉じる音で団長が解散をコール。 各々が帰り支度を始める中、「おや…これは」と古泉が小さく呟いた。 「これを見てください」 と差し出す腕を何気なく見て、これまた小さく驚愕。 機関から支給されるという、いかにも高機能そうな時計。 もちろん電波時計なわけだが…。 「1…分、早い…だと……!?」 「……うかつ」 長門が消え入るような声で発したその声は、おそらく俺にしか聞こえなかっただろう。 *** 「待ったか?」 一応時間よりも5分ほど早く来たつもりだが、佐々木は既に待ち合わせ場所に立っていた。 「僕も今来たところだよ。 今日は突然すまなかった」 さすがにもう春だけあって暖かいのだろう。 佐々木はミニスカルックだ。 ……いや、断じてやましい事は考えてないぞ。 「いいさ。 それより、後ろ乗るか?」 自転車の荷台を指さす。 「ちょっとここは人目が多いから…」 「あ」 確かに通行人が多い。 そりゃ大通りだから当然だな。 少し赤面しているのが自分でもわかる。 「すまん……。 荷物はかごに乗せといていいからな」 「くっくっ…。 変わらないね、そういう変に親切なところは」 変に、ってなんだよ。 普通に紳士で悪いか。 「悪くないよ。 うん、悪くない。 むしろ君の長所ではないかな?」 はいはい。 悪ふざけはこの辺りにして…行こうか、俺たちの中学へ。 「僕としては良い戯れのつもりだったんだが……それもそうだ。 行くことにしよう」 それからは、世界でも稀有であろう俺の1年間を話し、今日の出来事を話し、佐々木の1年間を聞き、橘たちとの出会いも聞いた。 「お前も大変そうだな…」 思えば長かった1年間をしみじみと思い出し、佐々木の勉強ずくしの1年間を憐れんだ。 「お互い様だよ、と言いたいところだが、僕の方は退屈そのものだったよ。 別に勉強が嫌いという訳ではないんだが、やはり同じ日常の繰り返しとなるとね……。 それに、女子の数も決して多くはないし、ましてや僕に男友達ができるはずもない。 君の……涼宮さん、いやSOS団の話をする時の顔は、なんだかんだ言ってもやっぱり楽しそうだからね」 うらやましいよ、と佐々木は呟く。 悲しみの影が見えたのは気のせいか。 「中学3年の時の反動が強いのかな…。 君と過ごした1年は忘れられない。 とても大きな存在だったんだろうね」 その大きな存在というのは俺か、過ごした時間か、という愚問は声には出さない。 佐々木は『今』が楽しくないのだろうか。 勉強だけだから、というわけではなく、生活そのものに退屈しているのだろうか。 友達関係が上手くいっていないのだろうか。 俺から見てもこいつは社交的には俺より遥かに優れた点がいくつもある。 それをふまえて考えてみても……こいつが学校で上手くいかない理由は見つからない。 とするとただ単に日常に飽きただけなのだろうか。 ──しかし、俺は何も言えない。 「ごめんな、佐々木」 「どうしたんだい急に」 少し驚いて俺を振り返る佐々木。 その顔にはきょとんとした表情が伺える。 「いや、何も言ってやれなくてごめんな、って」 「…くっくっ。 そんな事はないよ。 前に言っただろう? 君はね、『聞き上手』なんだ。 僕はね、キョン。 君に話を聞いてもらうだけで嬉しい。 だから君が謝ることなんて1つもないんだよ」 佐々木はそう言って、こちらに駆け寄り、自転車の後部座席にちょこんと乗った。 「うわっ…とと。 …と、突然乗ったら危ねえじゃねえか」 すると佐々木には珍しく、ふふ…と笑って、 「もう人目もない。 我らが中学校まで2人乗りといこうじゃないか」 なんだこいつは…。 暗くなったと思ったら突然明るくなりやがって…と半ば勢いだけで、自らも自転車へ飛び乗る。 「飛ばすぜ、しっかりつかまっときな」 と意味不明なセリフをダンディに呟き、自転車は夜の街を疾走する。 佐々木が後ろで笑いをこらえているのは分かっている。 だが俺のテンションは柄にもなくハイだった。 どうしてだろうか、そんな疑問など夜風に預けちまえ。 ……あれ? これはマジでやばいんじゃないか? 俺。 「キョン、頭の中がその口から外へと全て筒抜けだ。 僕の大切なお腹のためにも想像だけにしておくれよ」 そういう佐々木の声は、必死に笑いをこらえているのか、小刻みに震えていた。 *** 「着いたな……」 懐かしの中学校の校門前で自転車を降りてたたずむ俺と佐々木は、少しばかり思い出に浸る。 ………。 数十秒の沈黙の後、佐々木が口を開いた。 「さて、不法侵入に挑戦だよ」 不法侵入て…。 と少し呆れる俺の目の前、佐々木はその軽い体躯で校門を乗り越えた。 「ほら、キョンも早くおいでよ」 佐々木はいつにもなく楽しそうだった。 そんな佐々木を見るのもまた楽しい。 …分かったから落ち着きなさい。 そんな風に母親のような事を言いつつ、俺も校門を乗り越える。 校庭の周りに植えられた桜のうち、ベンチの置いてあるひときわ大きな桜の木を目指して歩く。 「そういえば、卒業式の後、ここで少し話をしたのを覚えてるかい?」 覚えてるとも。 内容まではさすがに覚えてないが。 「そうか、覚えてくれていて良かった。 他愛もない小話ばかりだったね。 僕も詳しくは覚えてないけれど」 しばらく沈黙が続いた。 とは言っても、居心地が悪い時間ではなく、日頃溜めこんだ不満を少しずつ昇華させることができる──そんな沈黙だった。 「桜、綺麗だね」 それは間違いない。 ただの懐かしい中学の桜ではなく、佐々木がいて、その思い出を語りながらの花見でもあるからだ。 「これはきっと、君と話しながら見る夜桜だからだろうね。 多分、1人で見ても味気ないものになると思う」 「同感だ」 時折、春の夜の心地よい夜風が頬をなで、桜の木を揺らす。 「ニュースでね、満開の桜が見れるのはおそらく明日の午前中まで、っていう事を知って、急いで君に連絡したんだ」 「そうだったのか」 おおよその見当はついていたが、それなら佐々木も俺なんか誘わずに、橘たちと行けばよかったのにな。 「くっくっ。 君ってやつは肝心なところで…って言っても仕方がないかな?」 今日は佐々木の笑った顔を良く見る。 鳥のさえずりのような笑い声もだ。 「本当に感謝するよ、キョン。 これでまたしばらく頑張れそうだよ」 佐々木は強いやつだと思う。 自分ではそんな事がないように言っているが俺はそう思う。 俺の知る限り、何かに挫けることはなかった。 何でもじゃないが、苦にしながらも前向きに切り抜けるやつなのだ。 そんな事を考えながら、何気なく校庭を見渡した。 ……ん? …見間違いか? 見間違い…だよな? 暗闇の中、必死に目を凝らす。 「どうしたんだいキョン。 さっきからぶつぶつ呟いているようだけど」 「いや、なんか変な物が見えたような気がしてだな…」 あれは……あのシルエットは…。 必死に目を凝らす。 「変な物って…キョン? 冗談は止めてくれよ。 今は夏じゃないし、なにより僕らは夜桜を見に来たんだ」 そんな不気味なもんじゃないぞ佐々木。 だが、下手したらもっとタチが悪いかも知れん。 『そいつら』はだんだん近づいてきている。 速度からしてどうやら歩いているようだ。 そして、俺と佐々木の目の前に着くと─ 「キョン! あたしたちも夜桜観賞会に参加しに来たわよ!」 ─なんて事を言ってのけた。 メンバーは……なんてこった。 SOS団の全員に鶴屋さん、そして佐々木団までもが一緒にいた。 「妹ちゃんも誘ってあげようと思ったんだけど、さすがに時間が時間だから止めといたわ」 ああ、あいつは夜遅いと必ず寝坊するタイプだからな。 それが賢明だろう。 「ってそうじゃないっ! なんでハルヒがここにいるんだよ」 「何よ。 あたしがいちゃいけないってわけ? ふーん…。 佐々木さんと2人きりがいいんだ」 何もそんな事は言ってないが…。 あ、いや、佐々木? そんなこともあるぞ? 「っていうのは冗談よ。 佐々木さんごめんなさい。 でもね、桜……今日散っちゃうんだったらみんなで見るのが1番!」 にかっ! とおてんとさんもびっくりの眩しい笑顔を作り、 「あんたもそう思うでしょ? キョン」 本当にこいつは…。 ったく呆れちまう。 「くっくっ、僕もちょうどそんな事を思っていたところだよキョン。 みんなで見るのが一番だね」 佐々木がそう言うんなら…まあ、いいか。 「みんなで見るのも悪くないのかもな。 だけどな、和やかムードをぶち壊すのだけはやめてほしかったぜ…って聞いてねえ!」 すでにハルヒは、走りながら校庭中の桜の木にタッチしていく、という意味不明な作業を開始していた。 「面白い人じゃないか」 と佐々木が面白そうに言った。 「まあな。 秋なのに桜を咲かせる意味分からんやつだからな。 その辺は否めないな」 半ば呆れながら、文化祭の時の事を思い出す。 「秋に桜を? それは驚きだ。 それじゃあこの桜たちを一気に舞い上がらせたりもできるのかな?」 それはそれで困るだろうが…。 現実になるからあいつにそんな事吹き込むんじゃないぞ佐々木。 しかし…確かに2人ならば静かなのが良かったが、大勢来たからには派手にやるのも悪くない……というのは自己中心的だろうか。 それから、そういえば…と少し離れた場所に立つニヤケ面に目をやると、あいつもこっちに気付いたようで歩きながら近づいてきた。 「いやはや、彼女から『キョンと佐々木さんがどこで花見をするのか教えてちょうだい!』 とメールが来たときは驚きましたね」 お前……分かってただろう古泉。 「やはりお見通しですか。 実は部室での一言で分かってしまったのですよ。 しかし僕では彼女を説得するのは不可能ですから」 困ったものです…とため息をつく古泉。 まあいいさ。 今日は夜桜のおかげで心が広くなってるからな。 とりあえずここにいる面子を見回す。 早くも桜に見入って「きれいですねえ」「そうですねえ」と言葉を交わす朝比奈さんと橘。 どこから持ってきたのか羊羹やら大福やら様々な和菓子を黙々と食べている長門と九曜。 「ふん、つまらん」と顔には嫌悪の表情を浮かべる藤原(仮)と「まあまあそう言わずに、こんな時くらい素直に楽しんでもいいじゃないですか」とそれを諌める古泉。 校庭の向こう側には、桜の木1本1本に向かって何やら叫んでいるハルヒと「面白そうだねっ」とそれを追いかけて行った鶴屋さん。 そして俺の隣には、夜桜を見上げて思案顔の佐々木がいる。 「佐々木、どうかしたのか?」 と何ともなく尋ねてみると、 「え? いや、なんでもないよ。 ただ、綺麗だなあ、この桜たちも今日で見納めかあ……って思ってただけさ」 なんか全然違う事を考えているような気がしたが……。 深く追求する気などないので、これ以上突っ込むのも止めておこう。 それからは真夜中の校庭で意味もなく騒いだり、花見と称してお茶会を開いたり、佐々木による桜の説明会があったりで時間は瞬く間に過ぎて行った。 「………そろそろ、23時30分…」「──時……間──」 という2名の宇宙人による時報が発信された。 「もうそんな時間なの? さすがにあたしもやばいわね。 …それじゃあ今日は解散ね!」 気づかぬうちに1日が終わろうとしていたようだ。 団長命令に従い、夕方と同じようにそれぞれが帰り支度を始める。 そういえば佐々木団の団長は佐々木じゃないのか? と、一瞬思いもしたが、全員ハルヒの言葉にしたがっているようだ。 「今日は楽しい夜を過ごせて良かったよ、キョン……っと、まだこの言葉を言うのは早いかな?」 ああ、それは佐々木を家まで送ってからな。 「ちょっとキョン。 もちろんあたしも送ってくれるわよね?」 へいへい。 ハルヒといえども、この時間に女を一人にするわけにはいかない。 「キョン、じゃあ2人乗りはしてくれないのかい?」 佐々木が残念そうな顔をするが、こればっかりは仕方がない。 「すまんな。 この状況で女を1人にしていくのは俺にはできない。 乗りたくなったらいつでも言ってくれ。 都合が合えば乗せてやるから」 「キョン」 「なんだ?」 心なしか、ハルヒが震えているように見える。 「寒いのか?」 「違うわよ。 あんたもしかして佐々木さんと2人乗りしながらここに来たの?」 あれ? どうしてお前はそんな怖い顔をしてるんだ? 「……こ…の…エ・ロ・キ・ョ・ン! 明日部室で覚えときなさいよ! SOS団規則に則って厳重に処罰してあげるから!」 なんで俺は怒られたんだろうか…? ハルヒの考えることはいつもよく分からん。 「なんとなく分かるよ。 涼宮さんの気持ち。 こっちも譲れないけどね」 今日の俺はどうかしているのだろうか? 佐々木の言っている事もよく分からん。 「……私も…」「──私…も──」 寄ってきたのは長門と九曜。 こいつらは……送る必要があるのだろうか? だからといってその言葉を無碍にすることもできないが。 「あ、じゃあわたしもいいですか…?」「お姉さんもよろしく頼むっさ!」「では僕も…」 朝比奈さんに鶴屋さんも寄ってきた。 ……古泉、お前は男だから『も』じゃないだろうが。 「それならみんなで帰ればいいんじゃないの?」 団長が今日1番のもっともな事を言った。 「そうだな。 そうするか」 それに俺も賛同し、藤原がすでにいないことに気づく。 まあ…あいつは心配ないだろう。 橘も呼び、大所帯で帰ろうとした刹那、長門が「危険」と呟いた──と同時に、突風が俺たちを襲った。 「うお!?」「きゃあ!」など小さな悲鳴が上がり──時間にして3秒ほどだろうか、突風は吹き続けた──俺は地面に尻もちをついていた。 「ったくなんなんだ……!!」 悪態をついた俺の目に入ってきたのは突風にものともせず立っていた長門と九曜、そして── 校庭の真ん中でつむじ風とも竜巻とも言いづらい、空気の渦が巻いていた。 そしてそれは校庭に咲く桜を巻き込み、舞い上がらせ、見事な桜吹雪を作り出していた。 俺に続き、起き上がった面々も感嘆の声を上げている。 無理もない。 舞台やドラマで見るものとは規模が違っているのだ。 物理法則などまるで無視している。 そして、こんなことができるのはあいつしかいないだろう。 しかし、俺は本日2度目になるであろう、古泉の「おや…」を聞いた。 「どうしたんだ?」 周りに聞こえないように、小声で話しかける。 「この空気の渦、涼宮さんの力ではありませんね」 なに!? と俺が驚愕の声をあげるのを遮るように、これまた小声で話しかけられた。 「あれは多分、佐々木さんの力なのです」 橘…それは本当か? 「おそらく、ですけどね。 古泉さんも分かると思いますが、私には佐々木さんの力だというのがなんとなく分かるんです。 言葉では説明できませんけど…」 なるほど……。 念のため、この事態を確実に理解しているであろう2人に尋ねてみる。 「長門、九曜」 2人は全く同じ動きで俺の方を振り向き、口を開いた」 「……涼宮ハルヒの能力は行使されていない」「──この…力…の……発生源…は……彼女──」 長門と九曜が目を向けた先には、この事態に違和感を抱いていないのであろう、「わあ…きれいだな」と感嘆の声を上げている佐々木がいた。 「何これ! すごいすごい!」「感動にょろ!」「………!!」 突然の奇跡にはしゃぐハルヒと鶴屋さん、傍では言葉も出ない朝比奈さんが口をパクパクさせている。 「しかしこれは……驚くべき事態ってやつじゃないのか?」 俺の問いかけに、橘が戸惑った顔で返事をする。 「何か感じたりはしていたのです。 それほど佐々木さんの気持ちも大きいということなのでしょう」 どういうことだ…? と、言葉を詰まらせる俺に、今度は古泉がハンサムスマイルを携えて返事をする。 「つまり」 少し間を置き、佐々木の方を見てから、こんな事を言った。 「彼女も涼宮さんと同じ、といったところでしょう」 古泉の発言に思わず息を呑んだが……ますます分からん。 佐々木とハルヒが一緒? それはないんじゃないか? いや…俺があいつらの全てを知っているわけじゃないが……。 でもどっか違うだろう…? そんな風に難しい顔をして考える俺を見て、古泉と橘が笑いだした。 「な…なんだよ」 「いえ……あなたはいつも少し違った方向に考えているんですよ」 「ふふ、それは治らないからしょうがないのかもしれませんね」 …ふう、やれやれ。 俺が考えても意味がないってことなのか…。 「……つまりあなたは」「──鈍……感──」 もう何とでも言ってくれ……。 俺は深いため息をついた。 *** 結局その竜巻は5分ほどで鎮まり、俺たちは帰路についた。 俺が家に着くころにはとっくに24時を過ぎており、叱られることこそなかったものの、晩飯は自分で作らなければならなかった。 ちなみに、幸か不幸か、佐々木が自分の力だということに気づくことはなく、さらにその竜巻に近所の住民が気づくこともなかったらしい。 そして現在、午前9時56分、ニュースでは昨日の出来事が報道されていた。 『……中学校の校庭に咲いていた桜の花が、すべて散っていたとのことです。 学校関係者によれば、件の桜は昨日までは満開であり……』 佐々木……。 頼むからその力を気まぐれで使わないでくれよ? 俺の自転車の後ろならいつでも開けておくから、な? .
https://w.atwiki.jp/sasaki_ss/pages/216.html
佐々木「この教会には素敵な伝説があってね。この教会に入った男女は必ず結ばれるんだって」 キョン「佐々木がそういう話するなんて意外だな」 佐々木「くっくっ、二人で入ってみようか」 キョン「今日はやけにロマンチックだな」 佐々木「今は止めておこう。いつかお互いに大人になって、僕の髪が肩まで伸びたら…… 一緒に入ってくれるかい?」 キョン「はいはい、わかったよ」
https://w.atwiki.jp/sasaki_ss/pages/1365.html
Googleとは、言わずと知れた最大手の検索サイトである。 かつて幅を利かせていたYahoo!やらインフォシークやらの検索サービスをあっという間に抜き去り今やGoogleは検索の代名詞、 最近はネット上の掲示板などでも、初心者が分からない事を質問したりしてもググレ=Googleで調べろ、の一言で返されることもしばしばだ。 それほどGoogleの検索範囲は広く一般常識から相対性理論まで何でもござれ、 政治家の視察のレポートがどっかの論文の盗用でした、なんて話も聞くくらいだしな。 要するに、本気でやればGoogleで調べられないことなど殆ど無いのだ。果たして俺の知識の中に、Googleの検索範囲を越えるものはどれだけあるのだろうね。 「キミは自分を低く見すぎだ。僕の知識範囲なんて、Googleを含めた各種検索サービスの前ではキミに毛が生えた程度だろう。 僕もキミも、所詮は一人の人間に過ぎないからね」 所詮は人、か。てことは人間じゃない奴等、例えば佐々木んとこの人型端末がアクセス出来る情報量は、俺達とどれくらい違うんだろうな。 「やあキョン、先日の九曜さんがアクセス可能な情報量なのだが……」 「げ、独り言のつもりだったのが聞かれてたのか!まあいい、聞いたんだろ。どうだった?」 「例えば太陽系内なら、直径4mm以上の浮遊物体全てをナンバリングした上で軌道も把握しているそうだ。 望むならナンバーから一つ一つ教えてくれるそうだが、僕の寿命が尽きてしまいそうなので断った」 所詮は人間、思い知りました。 だが佐々木よ、あいつとコミュニケーションを取れる方法を知るお前は、人間の中ではかなり上位の存在だと思うぞ。
https://w.atwiki.jp/sasaki_ss/pages/1254.html
今日はエイプリルフールだ 長門「……彼は1月前、私のアパートに泊まった」 阪中「キョンくんは一週間前わたしにキスしたのね」 鶴屋「この前少年は『鶴屋さんのお婿さんにしてくれ』とめがっさ頼みこんだにょろ」 橘「キョンさんが『中出しさせてくれたらお前の頼みを聞いてやる』と言ったので処女をあげたのです」 みくる「えーと、わたしのお腹にはキョンくんの赤ちゃんがいましゅ」 古泉「彼とは男どうしの愛情を確かめあう仲ですよ」 九曜「――あなたは――私の――婿――」 ハルヒ「……キョーン。一体何人に手を出しているのよ。この女たらしが」 キョン「落ち着けハルヒ。今日はエイプリルフールだろうが」 ハルヒ「そうだったわね。やけにリアルだったから危うく騙される所だったわ」 どこがリアルなんだよ 佐々木「彼とは長い付き合いだけどキスもしてくれない仲だよ」 ハルヒ「へー、佐々木さんって実はキョンに相手されてなかったのね。おあいにくさま。あたしなんかこの前もキョンに求められて、6回もやっちゃったわ」 佐々木「それは良かった。モテモテなんだねキョン」 おいおい、嘘に決まっているだろ。いや、顔色からは信じてないと思って良いかな? ハルヒ(え?あたしの嘘に動揺してない?) みくる「えーと、今日はエイプリルフールでしゅから」 ハルヒ「エイプリルフールだから…はっそうだわ」 ハルヒ「ということは佐々木と禁則事項したわね。何がただの友達よ」 キョン「キスしたと言えばしたが、中学時代の話で、それは事故みたいなもので……」 ハルヒ(つまり、それは嘘で本当は…)ガーン 結局、俺の本当の話は信じてもらえなかった。 (おしまい)